ボトルの向こうに見えるもの
一滴を作るプロセスの83%はアガベ育成。
Episode 4
一滴を作るプロセスの83%はアガベ育成。
Chinacoが使うのは、一般より成熟した10~12歳のブルーアガベ。
プレミアム・テキーラ Chinacoが使うブルーアガベは10歳~12歳と一般的な水準より長く育成したもの。加えて、樽熟成期間はアネホの場合2.5年。
だから、全工程で合計14.5年の時間が必要となります。その中でもアガベ栽培に向き合う時間は12年ですから、全体の83%に及びます。
メスカル Sierra Chiquitaの場合、天然アガベを数種類使います。こちらの収穫年齢は6歳。Chinacoのブルー・アガベと比べて短めです。メスカル特有のスモーキーさとフレッシュな爽やかさをバランスさせたいので、糖度を蓄え過ぎてリッチな味になり過ぎない様にします。メスカルの樽熟成は長くて1年ほどですので、やはりアガベ育成に全霊を注ぐ期間は全工程の80%以上になります。
樽熟成に軸足を置くウイスキーなど他蒸留酒とは大きく異なる点です。育成過程での大地からの養分吸収と生物学的化学変化により醸成される、甘みや芳香成分がポイント。
テキーラ各社自慢の味は、発酵や蒸留の製造プロセスで決まると言われることも多いですが、Chinacoのスタイルは、長い年月にわたるアガベ栽培=熟成にこそ最大の秘訣があるのです。
タマウリパス州では、農薬や肥料を極力使わずアガベが本来持つ伸張性・病害虫耐性を活かす、オーガニック農法が多いと言われています。ハリスコのアガベより小粒だし、糖度は低いと言われます。が、一方でタマウリパス地域の独特な土壌が生む天然フェノール成分が、タマウリパスのテキーラ・メスカルに豊かな味わいや芳香をもたらしてくれているのです。
作付面積は今年に収穫する分だけじゃない。
毎年継続的に収穫するから、収穫に満たない1~11歳の予備軍を常時育てる必要があります。基本的な作付の循環パターンです。
学校の校長先生が全学年の生徒を気にかけつつ、毎年卒業生を送り出すのと同じです。さらに休耕地を取って地力回復が必要だから、実際には今年収穫する量の12倍以上の面積にそれぞれの年齢に応じたケアを行うことになります。
育成は子株アガベを生み出すところから始まります。
植物栽培ではイメージしやすい種まき栽培に加え、株分けという技術も使われます。株分けは子株を分離して植えつける、広義のクローン栽培。二つの手法をどう使いこなすか。農家はいきなり大きな戦略選択をするところから始まるのです。
◇|株分け|クローン技術の一種。短期間かつ安定的に優等生に特化した集団ができる。
収率、成長速度、耐病害虫、糖度、芳香、の中で欲しい得意技に応じて、優秀株から、子株たちを株分けする。同じ株のクローンだから同じ強みを持った優等生集団ができる。リスクは、病害が発生すると集団全体が病気にかかり、みんな被害に遭う。全滅の恐れがあること。
◇|種子栽培|いわゆる種まき。プランテーション全体に多様性をもたらす。
収率、耐病害虫、糖度、芳香などの個体差を活かし、多様性ある集団を作る。甘さや香りに計算を越えた多様性の妙が出る。病気発生の時は、耐性がある個体が平気だから一定の生産は確保される。さらに掛け合わせの結果これまでにない優秀な株を生み出す可能がある。明日のヒーロー出現を夢見ることができる。 一方、パフォーマンスのバラツキが大きく、イマイチな出来の株も惜しみなく育成する必要がある。
オーガニック農法(有機農法)という戦術選択。
化成肥料や農薬の使用を極限まで抑えた農法を有機農法と呼びます。各国で決められた有機農法の定義に応じて、化成肥料や農薬を極力使わないようにする手法。
実際に多くの場合は、短期&長期の経済性を考えてなんらかの割合で有機と肥料・農薬使用を使い分けるスタイルがまだ主流です。特にテキーラの場合ブルーアガベ51%以上使用のきまりがあるので、単一種の適正な育成管理・収穫量確保の観点で、何らかの化成肥料・農薬を使用するのは現実的な選択と言えます。
それぞれ長所短所があり、農家は頭を悩ませる。欲しい風味を支えるアガベを効率よく、安定して継続的に生産するにはどの方法がよいか、唯一無二の絶対的な正解はありません。
- 単一優秀クローンを選抜&農薬ガードで病虫害を防ぎ、一刻も早い投資回収を目指すか。
- 種子栽培&有機農法でリスクヘッジし、コスト増でも長期的な安全プランか。
- <単一クローン=優等生>と<種子栽培=多様性>を世代ごとに変える中庸策か。
将来のリスク・チャンスも考えながら、経過観察と分析、アガベへのフィードバックをサボることなく辛抱強く繰り返し行うことが必要なのです。
ブランド紹介
- 2022.03.08
- 13:01
- コメント(1)
- ボトルの向こうに見えるもの
こんばんは